プラチナの指輪に金属アレルギーを発症した方へ、3つの対策法をご紹介
最近、多くいただくご相談が、
「結婚当初は大丈夫だったプラチナの結婚指輪が、最近、金属アレルギーで着けられなくなってしまった」
という内容です。
女性の方は、出産を堺に体質が変化して、金属アレルギーの症状が出やすくなった、という声もよくお聞きします。
大事な思い出が詰まっている結婚指輪ですし、着けられなくなってしまうのは残念な気持ちになりますね。
そこで、金属アレルギーについての正しい知識を身に付けて、適切な対策ができるように、3つの対策法をご紹介したいと思います。
【対策1】コーティング
【対策2】プラチナの指輪の内側に、金属アレルギーの心配がない金属をはめ込む
【対策3】金属アレルギーの心配がない金属で、全く同じデザインを作り替える
ただ、対策1と対策2は、応急処置的な方法です。また、対策3は作り変えなので、せっかくの思い出の結婚指輪はそのものではなくなってしまいます。ダイヤモンドを引き継いだりは出来るので、それぞれ詳しくお伝えしたいと思います。
目次
そもそも金属アレルギーとは?
金属に触れている部分が、赤く炎症を起こしたり、痒くなったり、ブツブツと湿疹が起きたり、ひどい場合はただれになるのが金属アレルギーの症状です。
また、なんとなく頭痛、肩凝り、疲労など、体調不良が続いている原因が、金属アレルギーの場合もあります。
金属から溶け出した金属イオンが、体内に取り込まれて、免疫が過剰反応することで症状を引き起こします。汗によって金属は溶け出すので、汗をよくかく夏場に金属アレルギーの症状が出やすい方も多いです。
最近では、指輪やピアスなどの宝飾品だけでなく、歯科金属が原因で、唾液に溶け出した金属が消化器官から吸収され、血液循環によって全身を巡り、全身に金属アレルギーの症状が広がる「全身型金属アレルギー」の報告も増えているようです。
金属アレルギーが起こるメカニズムとは?
金属アレルギー反応とは、金属から溶け出した金属イオンによって人体のタンパク質が変質し、アレルゲンになって、そのアレルゲンに人体の免疫が過剰に反応している状態と説明されます。
よく分かりづらい説明ですね(笑)。
もう少し分かりやすいように、実際に金属アレルギーに対策するためには、金属アレルギーになるプロセスを次の3段階に分けて考えるのがいいかと思います。
1.金属が汗や体液、唾液に触れる。
2.汗や体液、唾液に触れて金属が腐食され、金属イオンとなって溶け出す。
3.金属イオンに体が過剰反応する。
金属アレルギーは、この3つのプロセスを必ず経るので、いずれかをブロックできれば、症状は起きません。
1に対しては、金属を身に付けない、ということになりますが、それでは宝飾品の話として元も子も無くなってしまいます。それでも身に付けたい!という方のために、金属と汗が触れないようにするコーティングなどの方法があります。
2に対しては、汗や体液に触れても腐食しない金属があるので、それを用いることです。代表的な金属はチタンですが、他にもタンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブという普段の生活では聞き慣れない金属素材があります。後ほど詳しく紹介いたします。
3に対しての対策は、過剰反応してしまう体質の改善です。例えば歯科金属を取り除くことで、常に金属に対して体が敏感になっている状態が解消し、宝飾品へのアレルギー症状が緩和した、という報告もあります(ただ、歯科金属に関しては、ほとんどの金属アレルギーの方が、既に取り除いていることと思います)。その他、鍼灸や漢方などの東洋医学的なアプローチや、暗示や催眠などによる心理学的なアプローチによる体質改善もあるようです。ただ、再現性が約束できない上に、体質が逆戻りすることもあるのが難点です。
どちらかというと、このコラムでは2の対策を、私の得意な金属の知識や加工技術を元に詳しく書いています。
プラチナの金属アレルギーの原因は、混ぜられたパラジウム
プラチナの指輪によって金属アレルギーが出るのは、汗に触れたプラチナの指輪表面が腐食されて、金属イオンが溶け出しているからです。
一般的にプラチナ(白金)は金属アレルギーの原因になりにくいと言われています。汗によっても腐食しづらいですし、イオン化しづらい金属です。
それにも関わらず、プラチナの結婚指輪で金属アレルギーが発症するのは、プラチナに混ぜられたパラジウムという金属によってです。
金属アレルギーの原因になりやすい金属として、よく知られているのは、ニッケルやクロム、コバルト、水銀、すず、などのイオン化傾向の高い金属です。イオン化傾向の高い金属は、簡単にイオン化して溶け出すので、金属アレルギーの原因になりやすいわけです。
ところが最近、ニッケルやクロム、コバルト、水銀、すずに加えて、金属アレルギーを引き起こして問題になっている金属がパラジウムという金属です。
このパラジウムは、歯科金属に用いられることが多く、いわゆる「銀歯」はパラジウムと銀を主成分にした合金です。歯医者さんは「ギンパラ」と呼んでいます。歯科金属に用いる銀歯は銀だけだと黒く変色してしまうので、変色を防ぐ目的でパラジウムが混ぜられます。
宝飾用プラチナにも、このパラジウムが混ぜられていること多く、この混ぜられたパラジウムが汗によって腐食して溶け出し、金属アレルギーを起こします。
なぜ、プラチナにパラジウムを混ぜるのか?
プラチナは純粋な状態では柔らかすぎるため、他の金属を混ぜて、硬くして宝飾品に用いられることが多いです。
混ぜる金属の中でも、特に多いのがパラジウムです。
事実、プラチナにパラジウムを10%混ぜたPt900(ピーティーキューヒャク)と言われる宝飾用のプラチナ合金が、世の中のプラチナジュエリーの95%以上を占めています。
パラジウムとプラチナは相性がいいので混ざりがよく、しかも硬さと粘り強さが出るので加工しやすく、ジュエリーメーカーやジュエリー職人には非常に好まれます。
ただ、このパラジウムが金属アレルギーの原因になりやすいことが、最近問題になりつつあります。
パラジウムは金属アレルギーの血液テスト(リンパ球刺激試験)を行なうと、約半数の人に陽性反応が出るほど、金属アレルギーの原因になりやすい金属です。
金属アレルギーの血液テストで陽性反応が出るとしても、ずっと唾液に晒される歯科金属はともかく、指輪として身につけるぐらいなら金属アレルギーの自覚症状が出ない方も多いので、「パラジウムは危険」と殊更に声を荒げる必要はないかと思いますが、このプラチナに混ぜられたパラジウムが金属アレルギーの原因になっているということは覚えておくといいのではと思います。
ちなみに、パラジウム以外の金属をプラチナに混ぜる場合、何が適しているのか?それぞれのメリット・デメリットなどの研究はこちらに書いているので、興味のある方はどうぞお読みください。
→ プラチナ・プラチナ900・プラチナ950それぞれの金属アレルギーについて
過敏な方は、プラチナにも金属アレルギー反応が出ることも
それでは、パラジウムだけに気をつけていればいいかというと、そうでもなく、プラチナ自体に金属アレルギー反応が出る方もおられます。アトピーや敏感肌の方も、プラチナがダメな方が多いです。
ですので、パラジウムフリーのプラチナ(パラジウムが含まれないプラチナ=イリジウム割プラチナや、ルテニウム割プラチナなど)を、弊社のほうでも開発していますし用いたりもしますが、それで完全に金属アレルギーを防げるわけではありません。
人間の体液というのは、ほとんどどんな物質も溶かしてしまう性質を持っており、プラチナや金さえも少しずつ溶かして、そうして溶け出した金属イオンが金属アレルギーの原因になります。
ちなみに、そのような過敏な方でも、金属アレルギーの心配がなく身に付けられるタンタル、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブという、金属イオンが全く溶け出さない非常に安全な金属があります。中でもハフニウムはプラチナとも色味が近く人気があります。ハフニウムについては、この後の対策法のところで詳しくお伝えしたいと思います。
プラチナの指輪に金属アレルギーが出る方へ、3つの対策法
【対策1】コーティング
【対策2】プラチナの指輪の内側に、金属アレルギーの心配がない金属をはめ込む
【対策3】金属アレルギーの心配がない金属で、全く同じデザインを作り替える
【対策1】コーティング
コーティングをすれば、金属と肌が直接触れることがなくなるので、金属の腐食が防がれます。
ただ、金属アレルギー対策に有効なコーティングは、プラスティック系の透明樹脂しか方法がありません。金属のコーティング(メッキや蒸着)では、そのコーティングした金属や下地の金属に金属アレルギーを起こしてしまいます。
コーティングのデメリットは数日で部分的に削れてきてしまうことです。コーティングが一部分でも削れて金属が露出すれば効果がなくなってしまうので、こまめにコーティングしなおす必要があります。塗布をしてから硬化に24時間、そして数日間は有機溶剤の匂いがする、など限界もあります。また宝石に付着すると輝きが曇るという欠点もあります。
この樹脂コーティング法は、応急処置としては有用です。例えばイベントの時などに時々しか着けないエンゲージリング(婚約指輪)の内側に塗布をして着用するのは有効です。
【対策2】プラチナの指輪の内側に、金属アレルギーの心配がない金属をはめ込む
これは、タンタルやハフニウム、ジルコニウム、チタンなどの金属アレルギーの心配がない金属を用いて、プラチナが直接肌に触れないように加工する方法です。
プラチナの指輪のデザインにもよりますが、見た目も大きく変わらず、金属アレルギーに対策することが可能です。
この場合、チタンを用いれば安価に仕上がりますし、チタンの色の黒さや経年変化で変色してしまうデメリットも、指輪の内側だけであれば、それほど気になりません。
ただこの方法は、リングの内側はプラチナが直接肌に触れないとしても、リング外側部分のプラチナが両脇の指に触れることは変わらないので、両脇の指で金属アレルギーが出ることが防ぎきれない弱点が挙げられます。
また異種金属を組み合わせた指輪は、その組み合わせ方によっては隙間に汚れが溜まりやすく、衛生上好ましくないことも挙げられます。
【対策3】金属アレルギーの心配がない金属で、全く同じデザインを作り替える
金属アレルギーの心配がなく、プラチナに近い見た目の「ハフニウム」という金属を使って、全く同じデザインを改めて作ります。
ハフニウムならば、金属アレルギーの心配をしなくていいので、ずっと安心して身に付けていただくことが可能です。
弊社には、結婚の時に購入したプラチナの指輪で金属アレルギーが出てしまい、そのプラチナの指輪と全く同じデザインをハフニウムで制作して欲しい、というご注文をよくいただきます。みなさんがおっしゃるのは、「もっと早く知っていればよかった」というお声です。
ハフニウムは丈夫な素材(強度はプラチナの約3倍です)でもあるので、少々ラフに扱ってもキズや変形に強く、日常生活で指輪に気を使わなくていい!と男性にも好評です。
ただ、デメリットとしては、作り直すわけなので、思い出の詰まった結婚指輪そのものではなくなってしまう点です。
元々のプラチナの指輪から、留められているダイヤモンドを取り外して、新しく作るハフニウムの指輪に移植することで、愛着を引き継ぐなども可能なので、それもよろしいかもしれません。あるいはプラチナ地金を再熔解をしてリメイクすることなども可能です。(例えばペンダントにすれば衣服の上に装着するので肌に直接触れず、金属アレルギーでも着けられます。)
また、結婚から10年目などの節目に、ハフニウムで新しく指輪をお作りになられる方も多いです。
こちらのようなハフニウムのエタニティリングなど、プレゼントしてもらえたら嬉しいですね。重ね付けにも使いやすいです。
1、2、3いずれの方法も、ご相談いただけましたら、ご希望に合わせてもっとも良い形でご提案させていただきます。どうぞご相談ください。
これから結婚指輪の購入を、お考えの方へ
このコラムの内容は、プラチナの金属アレルギーにお困りの方向けに書かせていただきましたが、もしかしたら、これから結婚指輪を購入しようとしていて、プラチナの金属アレルギーについて調べている方もお読みかもしれません。
TOKYO DIAMONDでは、金属アレルギーにお悩みの方に、100%金属アレルギーの心配がない結婚指輪をオーダーメイドでお作りしています。
素材やデザインなど金属アレルギーに対応した17年の研究成果と、選ぶ際のポイントを、こちらに詳しくまとめています。
→ 金属アレルギーにならない指輪の選び方
素材がなんといっても重要です。上記に書かせていただいた通り、素材が体に合わないとリカバリーが非常に難しいので、どうぞ、ご一読ください。
このコラムの執筆者
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