チタン合金、医療用チタンの金属アレルギーになりやすさについて

金属アレルギーの原因になりにくい金属として、最も広く知られているチタンですが、その他にも別の金属を混ぜたチタン合金などもあり、金属アレルギーのなりやすさについて気になるところかと思います。

また医療用チタンとかサージカルチタンと言われるものもあって、これはどうなんでしょうか?という質問もいただいたりします。

そこで、今日は、チタンとチタン合金、そして医療用チタンの金属アレルギーになりやすさについて、まとめておきたいと思います。


まず、純チタンには、大きく2種類があります。

・1種チタン

・2種チタン


また、チタン合金は、混ぜる金属の種類と割合を変えれば無限に別の合金を作ることができますが、手に触れる可能性があるものは以下の3種類に大別できます。

・α+βチタン(もしくはβチタン)

・チタン-パラジウム合金

・形状記憶チタン-ニッケル合金



純チタンの金属アレルギーについて

まず、純チタンは1種と2種というようにJIS規格で区別されて扱われます。この2つの違いは、主として酸素が含まれる量の違いです。

含まれる酸素が多いほど、硬い酸化チタンのかたちで金属中に偏在し、硬度が上がり展延性が減るため、強度を求められる場合は2種を、プレス加工用には延びの良い1種を、というように使い分けることが多いです。

この1種と2種では、金属アレルギーのなりやすさは、ほぼ同等です。この2つはともに基本的に心配がないと考えていただいてよいかと思います。



チタン合金の金属アレルギーについて

次にチタン合金について。

合金というのは、金属を高温で熔かして種類の異なる金属を混ぜ合わせたものですが、チタンは混ぜ合わせる金属の種類や比率によって、様々な効果や特性が得られることが知られています。

ざっくりと、日常生活で触れる可能性のあるものとして3種類のチタン合金があります。

1.強度アップを狙ったチタン合金が、「α+βチタン合金」や「βチタン合金」
2.耐食性アップを狙ったチタン合金が、「チタン-パラジウム合金」
3.形状記憶を持たせたチタン合金が、「チタン-ニッケル合金」


ここで、金属アレルギーについて問題になってくるのが、混ぜられた別の金属の種類です。

α+βチタンでは、6%のアルミニウムと4%のバナジウムが混ぜられた6-4チタン(ロクヨンチタン)が一般的です。

しかしアルミニウム、バナジウムともに耐食性が低く、金属アレルギーについてはやや不安があります。ですので、金属アレルギーに配慮する場合、過敏な方は6-4チタンは避けたほうがいいかと思います。


他、βチタンというのは、バナジウム、クロム、スズ、アルミニウムなどを多く添加して、β相(体心立方構造)のみで構成されたチタン合金で、より強度が高いことが特徴です。しかし、添加元素が多い上に添加元素の種類などから考えても、α+βチタン合金よりも更に金属アレルギーのリスクは高まります。


ちなみに人工骨やインプラントに用いられる場合には、バナジウムの代わりにニオブを用いた6%アルミニウム-7%ニオブの組成のα+βチタン合金などが、最近では用いられることが増えているようです。

さらにはアルミニウムも含まれないチタン-ジルコニウム合金など、より生体適合性や金属アレルギーに配慮しつつ高強度のα+βチタン合金も最近では開発されています。(このチタンとジルコニウムの2元合金は、私も作成して色々試していましたが、組成の比率によって様々な合金相が現れ、軽く、強度、粘りなどをコントロールできるので興味深いです。)

参考論文:生体材料としてのチタンおよびチタン合金
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jilm/55/11/55_11_561/_pdf


チタン-パラジウム合金は、海水や海水中の塩分で腐食してしまうチタンの耐食性を補うために、パラジウムを1%以下ほど添加した合金です。

パラジウムの添加によって耐食性は上がりますが、パラジウムは比較的金属アレルギーの原因になりやすい金属ですから注意が必要です。

ただ、チタン-パラジウム合金は、海洋構造物や製塩設備などで主に用いられるものなので、肌に触れるものとして見かけることは、ほとんどないかと思います。

参考論文:耐食チタン合金の特性と適用事例
http://www.nssmc.com/tech/report/nssmc/pdf/396-07.pdf


一方で、形状記憶合金であるチタン-ニッケル合金は、含まれるニッケルに注意が必要です。ニッケルは最も金属アレルギーの症例報告の多い金属です。

例えば、メガネのフレームに使われていたり、ブラジャーの形状を保つワイヤーもチタン-ニッケルの形状記憶合金なので、金属アレルギーのトラブルの報告を耳にします。歯科矯正の器具(ワイヤーなど)にも用いられています。

メガネの形状記憶フレームは、塗装やコーティングがされていることが多いですが、永年の使用で母材が露出した時などに金属アレルギー症状が出ることがあります。

歯科矯正の器具は、最近ではニッケルを含まないニッケルフリーのチタン合金のものも開発されているので(例えばチタン-モリブデンの組成のβチタン系合金など)、金属アレルギーの方は治療の際に相談されるのがいいかと思います。

その場合は、「歯科矯正 ニッケルフリー」などのキーワードで検索すると、金属アレルギーに専門特化した歯医者さんが見つかります。


医療用チタンとはなにか?

医療用チタンとか、サージカルチタンという言われ方をするチタンがあります。

サージカル(surgical=医療用の)という言い方ですが、このような工業規格は実は存在せず、安全なイメージを強調するための商品名とかキャッチコピーに近い使われ方の呼び名です。

実際は、純チタン1種も、純チタン2種も、あるいはチタンニッケル形状記憶合金でさえも、6アルミ-4バナジウム-チタン合金も、すべてをまとめて医療用チタンと呼ばれていて、特定のチタン合金を指す言葉ではないようです。

ですので、「医療用」と言われているからといって全く金属アレルギーの心配がないかというと、そうではありません。金属アレルギーに配慮する場合は、純チタンを選ぶか、もしくは合金の場合は合金の成分に気をつける必要があります。


以上で、一般に触れる可能性のあるチタン、チタン合金と、それぞれの金属アレルギーの対策について、ほぼ網羅できているかと思います。

他にもご相談、ご質問などがございましたら、お気軽にお問い合わせください。


追記:医療用チタンの金属アレルギーテストについて

最近、この記事を読んだ医師の方や、医療用チタンをインプラントとして埋め込んだ方など、「医療用チタン」についてのお悩みのご相談をいくつかいただきました。

ここまでの合金組成の話を詳しく書いているところがないので、よく調べるうちに、私のこのコラムを見つけていただいたのだと思います。

そのご相談というのは、「医療用チタン」の器具を、金属アレルギーに過敏な方が、信用して用いてもいいのか?というものです。

上記では、ニオブを用いた6%アルミニウム-7%ニオブの組成のα+βチタン合金や、アルミニウムも含まれないチタン-ジルコニウムのα+βチタン合金について書かせていただきましたが、実際の医療の現場ではこれらのアレルギーに配慮した合金はまだまだ一般的ではないらしく、一般には6%アルミニウム-4%バナジウムのチタン合金(ロクヨンチタン)がまだまだ多く使われているとのことです。

私はあくまでも宝飾品としての冶金の専門家であって、医療分野の専門家ではないので断定はできないのですが、合金組成のことを詳しく見させていただくと、そのようなのです。

また、バナジウムなどは金属アレルギーのパッチテスト項目にもなく、あらかじめ検査することもできないから、どうしたらいいか?とも相談されます。

それで、私のほうからのご提案として、6%アルミニウム-4%バナジウムのチタン合金そのものを肌に貼り付けて接触テストをすれば、少なくともアルミニウム、バナジウム、チタンのいずれかにアレルギーがあるならば反応が出て、あらかじめ把握できるのでは、とお伝えしています。

このロクヨンチタンでしたら一般的にも出回っているので、チタン材料屋さんに問い合わせて合金の小片を取り寄せることなども簡単です。

こういう話からも、「医療用チタン」という言葉を厳密な意味で、本当に安全なものだけに用いる時代が来てほしいなと、個人的には思います。


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