プラチナ・プラチナ900・プラチナ950それぞれの金属アレルギーについて
わたしのところには、金属アレルギーだから指輪をつけることを諦めている、という方が多く相談に来られます。
中でも、多くいただくご相談は、
「結婚指輪として買ったプラチナの指輪で金属アレルギーが出てしまうのですが、、」
というお話です。
また、
「金属アレルギーの体質ですが、プラチナの指輪は大丈夫でしょうか?
プラチナ950は、どうなのでしょうか?」
「結婚当時は、金属アレルギーパッチテストで確認をしてプラチナが大丈夫だったのでプラチナの結婚指輪を購入したのですが、出産を機に体質が変わったのか、金属アレルギーが出るようになってしまいました。」
というご相談もいただいたりします。
ですので、今日は、ウェディングジュエリーとして、世の中の90%以上を占める人気のプラチナについて、金属アレルギーの原因と対策のお話をしたいと思います。
また、弊社TOKYO DIAMONDでは、そんなプラチナで金属アレルギーが出てしまう過敏な体質の人のために開発した、金属アレルギーにならない「ハフニウム」という指輪の素材をご用意していますので、末尾に紹介しています。
プラチナとは白金?ホワイトゴールドとは違う?
プラチナとは、白金(白金)とも呼ばれる、白い輝きの金属です。
金と並んで耐食性の高い貴金属なので、サビたりすることもなく、温泉や洗剤などで変色することもない、宝飾品の素材としては最高の部類の金属です。
ずっしりと重く、比重は21.5。小さく華奢な指輪でも、持ってみるとけっこう重いです。
また融点も高く、1769℃まで温度を上げないと熔けないので、宝飾品として利用できるような技術は19世紀になるまでありませんでした。
プラチナの熔解技術の確立と、ダイヤモンドのブリリアントカットの技術が、19世紀末の同じ頃に確立され、白く輝くプラチナ地金にダイヤモンドを組み合わせた「ガーランドスタイル」が王族たちの間でもてはやされました。このガーランドスタイルを確立したのがカルティエの初代だとされています。
そこから、純白のプラチナとダイヤモンドのジュエリーが、ウェディングジュエリーの定番になってゆきました。
ちなみに、最近はホワイトゴールドと呼ばれる地金も見かけますが、これはプラチナとは別の地金です。ホワイトゴールドを日本語に置き換えると白い金となり、白金と混同されがちですが、ホワイトゴールドは金とパラジウムの合金です。高価なプラチナの代替品として開発されたものです。
金属アレルギーの原因になるパラジウム
では、プラチナは、金属アレルギーの心配はあるのでしょうか?
一般的な宝飾用プラチナでは、混ぜられたパラジウムが金属アレルギーの原因になることが知られています。
世の中に出回っているプラチナジュエリーの95%以上は、プラチナ90%-パラジウム10%の合金、プラチナ900と言われるものです。
宝飾品の裏側にPt900という刻印がされているのを見たことがある方もいるのではないかと思いますが、これがプラチナ90%-パラジウム10%合金です。
プラチナは純粋な状態では柔らかすぎるために、何かを混ぜないと宝飾品として成り立ちません。そこでプラチナと混ざりやすく、少しの添加量で硬さが出るパラジウムを混ぜてあるわけです。
ですので、宝飾品として出回っているプラチナ900も、ホワイトゴールドも、どちらもパラジウムが含まれている、ということになります。
このパラジウムは、リンパ球幼若化テストという金属アレルギー検査を行なうと、約半数の人が陽性反応が出る、と言われているほど、金属アレルギーになりやすい金属です。
つまり、気づいていない方や、汗をよく掻く夏だけ痒いというように症状が軽かったりすることもありますが、潜在的には2人に1人がパラジウムにアレルギーを持っているということになります。
パラジウムの危険性
パラジウムは歯科用金属として、よく使われていますが、歯科用金属のパラジウムに対する金属アレルギー反応が多く報告されています。
いわゆる銀歯と言われるものが、金と銀と銅とパラジウムの合金で出来ています。
宝飾業界では、まださほど厳しくはないのですが、歯科業界の特に医療先進国のドイツなどでは、パラジウムの使用について、「幼児及び妊婦に、銅を含有するパラジウム合金と、水銀・銀アマルガム合金を使用しない」という勧告を出しているほど、パラジウムは安全性に疑問が持たれており、現在ではほとんど使用されていません。
日本では、まだまだ使われている銀歯としてパラジウムですが、おそらく近い将来、歯科業界では使われなくなるのでは、と予想しています。(現在のところは、保険治療ではパラジウムが使われ、自費治療ではパラジウムを避ける、というように、こんなところにも格差が現れています。)
ですので、金属アレルギーの方は、プラチナジュエリーを選ぶ際に、混ぜ物が何なのか?パラジウムが混ぜられていないのかどうかを、確認することをおすすめします。
パラジウムを使わない場合、どうしたらいいのか?
プラチナは、何かを混ぜないと、純粋な状態では柔らかすぎて宝飾品には使えないという話をしました。
純粋なプラチナは、針金と同じぐらい柔らかいです。針金は軟鉄や純アルミで出来ていますから、硬度は純プラチナ同じぐらいです。当然、身に着けているうちに曲がったり歪んだりしてしまいます。留めた石も落ちてしまいます。
ですので、パラジウム以外のものを混ぜてプラチナを硬くする場合に、何を混ぜて硬くしたらいいのか、という話をしたいと思います。ちょっと専門的でマニアック過ぎる情報かもしれませんが、こういう事に興味のある方のために書いておきます。
プラチナに混ぜて硬くする作用のある金属を挙げると、
ルテニウム
イリジウム
パラジウム
銅
コバルト
ニッケル
あとは変わったものでは、アンチモンやホウ素なども硬くする効果があります。
銅、コバルト、ニッケルは金属アレルギーの原因になるので、除外したほうがいいでしょう。(銅、コバルト、ニッケルを混ぜたプラチナは市場では見つけるほうが難しいほどです。)
すると、ルテニウムとイリジウムが残ります。
ですので、金属アレルギーの原因になりづらいプラチナは、
・プラチナ950-ルテニウム50合金
・プラチナ900-イリジウム100合金
の2つの合金が挙げられる事になります。
ルテニウムは、少量の添加でも大きく硬度を上げる効果があるので、5重量%だけを添加したプラチナ950-ルテニウム50という組成で用います。しかも鍛造加工を施すことによって硬度の上昇が大きいです。
一方でイリジウムは、硬度を上げる効果がルテニウムほど大きくなく、10重量%を添加して、プラチナ900-イリジウム100という組成で用います。
欧米のブランドで地金に気を使っているところはPt950を使うところも増えてきました。鍛造を謳っているブランドのPt950は、プラチナにルテニウム5%を添加した合金です。ハードプラチナと呼んでいるブランドもあります。
一方で、プラチナ950-ルテニウム50は、偏析しやすく、鋳造の湯流れも悪く、鋳造加工による大量生産には向かないというデメリットもあります。
プラチナ950は金属アレルギーになりやすい?
ここまでは、プラチナに混ぜたパラジウムという金属が、金属アレルギーの原因になるという話をさせていただきましたが、ルテニウムを混ぜて硬くしたプラチナ950の金属アレルギーのなりやすさはどうなのでしょうか?
金属のなりやすさは、個人差はありますが傾向として、パラジウム、ルテニウム、プラチナの順になります。
ですので、プラチナ950の金属アレルギーになりやすさは、プラチナ900よりは安全性が高いけれど、純プラチナよりは安全性が低い。そのような位置付けです。
純プラチナにさえ金属アレルギーが出てしまう方も
混ぜ物だけでなく、プラチナ自体に金属アレルギーが出てしまう方もいるということも、書き加えておきたいと思います。
元素周期表を見ても、以下の赤枠で囲ったように、プラチナは、上からニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、プラチナ(Pt)、と並んでいるので、これらはお互いに性質が似ています。
下に行くほどイオン化傾向が低いのでニッケルよりもパラジウムのほうが金属アレルギーの原因になりにくく、パラジウムよりもプラチナのほうが金属アレルギーの原因になりにくいのですが、それでも完全に大丈夫ということではありません。
ですので、プラチナ製品はいずれも、たとえパラジウムを排除したとしても(プラチナ950だとしても、純プラチナだとしても)、金属アレルギー反応が出てしまう可能性があるということです。
まとめとして、ホワイトゴールドやプラチナ系の地金を金属アレルギーの原因になり易い順に並べると、
ニッケル系ホワイトゴールド
パラジウム系ホワイトゴールド
プラチナ900(残りはパラジウム10%)
プラチナ950(残りはルテ二ウム5%)
プラチナ900(残りはイリジウム10%)
純プラチナ
というような順になります。
プラチナに金属アレルギーが出てしまう方におすすめの金属
プラチナや金よりも、さらに金属アレルギーの心配がない金属があります。
それが、タンタルとハフニウムという金属です。
純プラチナや純金にさえ、金属アレルギー反応が出てしまう過敏な方には、「タンタル」や「ハフニウム」という金属があることを覚えていただければと思います。
人口骨や手術用縫合糸、人工心臓の金属パーツなど、医療用途では比較的よく知られた、人体との適合性が高い金属です。
特にハフニウムは、プラチナに近い銀色の金属で、しかも純度100%(厳密には99.98%)の状態でも硬く丈夫で、キズや歪みにも強いので、当方でも高い人気があります。
デメリットは価格の高さと、ダイヤモンドをツメで留めるような婚約指輪の形にはあまり向かないのですが、ずっと着ける結婚指輪(ペアリング)の素材としては、これ以上のものが見つからないという最高級の素材です。
ハフニウムという名前は聞きなれないと思いますが、非常に素晴らしい金属なので、興味のある方は調べてみてください。
タンタルやハフニウムでお作りするオーダーメイドの結婚指輪については、こちらに詳しく書いています。
→ 金属アレルギーにならない指輪の選び方
このコラムの執筆者
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