パラジウムの金属アレルギーについて・パラジウムフリーのジュエリー素材11選

最近、よくご相談いただくのが、

「パッチテストでパラジウムに金属アレルギーの陽性反応が出るようです」

「プラチナは金属アレルギーが出にくいと思っていたのですが、混ぜられているパラジウムに反応が出ると聞きました。」

「歯科金属にパラジウムが含まれていたことから、全身にブツブツができて大変でした。パラジウムは避ける必要があるので、どうしたらいいでしょうか?」

という、内容です。


そこで、今日はパラジウムの金属アレルギーについて、詳しく書きたいと思います。



パラジウムとは?どんな金属?

パラジウムは、金やプラチナと同じく貴金属の仲間で、錆びたりせず、変色もせず、銀色の美しい金属です。

パラジウムのブランクリング

見た目はプラチナとほぼそっくりで(わずかにプラチナのほうが明るいです)、サビや変色もせず、銀色の輝きが美しいままなので、宝飾品としても用いられたり、他、歯科金属(いわゆる銀歯)に適した金属として重宝されています。

他、最近は、パラジウムは触媒としての働きから自動車の排気ガスフィルターとしての利用が盛んです。高温の排気ガスをパラジウムに吹き付けると、無害な二酸化炭素、水、窒素、酸素に分解するという性質があります。近年のパラジウム価格の高騰は、この排気ガスフィルターとしての用途が欧州で急速に広がった(プラチナからパラジウムに切り替わった)ためです。



パラジウムが金属アレルギーの原因になる

実際、リンパ球幼若化テストという血液検査式のアレルギーテストを行なうとと、約半数の人がパラジウムについて陽性反応が出る、と言われています。

ただ、血液検査式のアレルギーテストのほうが、接触式のテスト(パッチテスト)よりも反応が顕著に出やすいと言われていますので、実際にパラジウムのアレルギー反応に自覚がある人は半数よりは少ないと思いますが、それでも潜在的には半数の人に金属アレルギーが起こるほど金属アレルギーになりやすい金属です。

パラジウムは、元素周期表で見ると、ニッケルとプラチナの中間に位置している「ニッケル族」の金属です。Pdというのがパラジウム(Paradium)です。

元素周期表ではニッケルとパラジウムとプラチナは同じ仲間の金属
元素周期表ではニッケルとパラジウムとプラチナは同じ仲間の金属

この元素周期表上の位置から読み取れるのは、プラチナのように錆びたりせず、変色もしない性質を持つ側面もありますが、金属アレルギーの原因物質の中で最も被害報告の多いニッケルとも似た性質も併せ持つということです。(縦の列は「族」と言って性質が似ています)

宝飾業界では、さほど厳しくはないのですが、例えば歯科業界の特に医療先進国と言われるドイツなどでは、パラジウムの使用について「幼児及び妊婦に、銅を含有するパラジウム合金と、水銀・銀アマルガム合金を使用しない」という勧告を出されているほどパラジウムは安全性に疑問がもたれており、現在ではほとんど使用されていないようです。

日本では、まだまだ使われているパラジウムですが、おそらく将来、歯科業界では使われなくなる時がくるのではと予想しています。ひと昔前はニッケルが歯科金属に使われていましたが、健康被害が問題になり、今では使われなくなりました。ニッケルと同じ仲間のパラジウムも同じ経緯をたどるのではないかと予想されます。現在はパラジウムが含まれた「銀歯」は保険が適用される歯科治療で用いられ、パラジウムフリーの材料を使おうとすると自費治療の扱いになります。

そして、宝飾業界でも遅かれパラジウムの扱いに変化が出てくるかもしれません。パラジウムフリーという言葉(=パラジウムが入っていないということ)が欧米系のブランドでは見かけるようになってきています。



パラジウムが含まれる宝飾品

そんなパラジウムですが、宝飾品にはかなりの割合で含まれています。


まず、プラチナ900

プラチナ900、Pt900と表記されたりしますが、世の中のプラチナジュエリーやプラチナの結婚指輪のほとんどは、このプラチナ900であり、プラチナ90%+パラジウム10%の合金です。プラチナにパラジウムを混ぜると適度な硬さに調整できるので、宝飾品には好んで使われています。

パラジウム以外の金属を混ぜても、プラチナを硬くすることはできるのですが、パラジウムほどプラチナと相性のいい金属は他にありません。パラジウムとプラチナはコンビでないとプラチナジュエリーはほぼ成り立たないと言ってもいいほどです。

例えば、私たち彫金家は、プラチナに混ぜるパラジウムの分量をコントロールすることで、融点を自在に扱う「ロウ付け」を行ないます。パラジウムの含有量が増えるほどプラチナの融点が下がるので、例えばプラチナ900とプラチナ900を溶接する際には、プラチナ700をロウ材に用いて、プラチナ900は融けないがプラチナ700は融ける温度に加熱して溶接する、というような使い方をします。


次によく見るのが、ホワイトゴールド

ホワイトゴールドは、WG18KとかWG14Kのように表記(刻印)されることが多いですが、これは金とパラジウムの合金です。WG18Kは金75%+パラジウム25%の合金、WG14Kは金58%+パラジウム42%の合金です。

ホワイトゴールドも、高価なプラチナの代替材料として、宝飾品によく用いられています。


シャンパンゴールド

シャンパンゴールド、と呼ばれる淡い金色の金属も、パラジウムと金の合金です。場合によって銀も混ぜられていることもあります。

パラジウムは金に混ぜると金色を消す脱色作用を持つため、パラジウムを少しだけ混ぜると金色が淡くなり、シャンパンゴールドになります。


ピンクゴールド

ピンクゴールドは、金と銅とパラジウムの合金です。


その他、稀に、シルバーに混ぜてあることもあります。ホワイトシルバーとかエターナルシルバーとか呼ばれたりしています。

パラジウムは、白くて美しい見た目であるだけでなく、金の色味を白色にする効果や、銀の硫化、銅の酸化、サビなどを抑制する働きがあるため、宝飾用の金属に好んで混ぜられます。例えばゲルマニウムシルバーには1%のパラジウムが添加してあって、黒色硫化を防ぐ役割を果たしています。

このようにパラジウムは宝飾品には多く用いられているので、金属アレルギーの方は宝飾品を購入する前に、パラジウムが含まれないかどうかを確認することをお勧めします。



有用なパラジウム

ここまで書くと、パラジウムがいかにも危険な金属のような印象を与えてしまっているかもしれませんが、それは金属アレルギーの人にとってはお勧めしない、ということに限った話です。

金属アレルギーの心配がない人にとっては、パラジウムは全く問題がありません。むしろ錆びない、美しい、プラチナより軽くて安価であるなど、メリットの方が大きいので、宝飾業界でも力を入れているのだと思います。

最近、プラチナとパラジウムの相場価格が逆転しましたが、プラチナの比重はパラジウムの約2倍なので同じ体積のものを作る場合は、まだまだプラチナの方が高くなります。

ちなみに私自身は、今のところ金属アレルギーの体質ではないので、いろいろな金属にパラジウムを混ぜて、錆びなくさせたり、色の調整をしたり、パラジウムを取り扱う研究を重ねています。機能的でとても有用な金属だと思います。



パラジウムフリーのプラチナ

弊社TOKYO DIAMONDでは、パラジウムの金属アレルギーを避けるために、パラジウムを含まないプラチナを開発し、そしてデザインへの応用開発を続けています。

主なパラジウムフリーのプラチナとしては、イリジウムを混ぜて硬くした「イリジウム割プラチナ」と、ルテニウムを混ぜて硬くした「ルテニウム割プラチナ」の2つです。

イリジウム割プラチナで制作したエンゲージリング
パラジウムフリーの「イリジウム割プラチナ」で制作したエンゲージリング

イリジウムをプラチナに10%混ぜると、ちょうどいい硬さになるので、プラチナ900-イリジウム100の割合の合金で用います。またルテニウムは5%の添加でちょうどいい硬さになるので、プラチナ950-ルテニウム50の割合の合金で用います。

この2つのパラジウムフリーのプラチナは、弊社のように1つずつ鍛造成形で制作するスタイルなら何も難しくはないのですが、偏析しやすく鋳造が難しいので鋳造で大量生産する大手のスタイルには向かないのが難点です。

また、イリジウム割プラチナ、ルテニウム割プラチナはともに、ロウ付けにも難点があります。一度目のロウ付けなら純プラチナをロウ材に用いればいいのですが、以降のより低い融点のロウ材にはどうしてもパラジウムが含まれてしまいます。(このあたりの制作上の詳しい話は、長くなるので、また別の機会に書きたいと思います)



プラチナに金属アレルギーが出てしまう人も

さて、ここまではどうやってパラジウムの金属アレルギーを除けるか、という話をしてきましたが、プラチナ自体にも、あるいは金や銀にも金属アレルギーを発症する方もいるという話を加えておきたいと思います。

いくらパラジウムを避けても、混ぜられるほうの元の地金に金属アレルギーが出るなら、無駄な努力になってしまうからです。

プラチナは、金や銀に比べて、比較的金属アレルギーが出やすい金属です。プラチナが、パラジウムやニッケルと同じ「ニッケル族」の金属であるからです。

また、ルテニウムも、イリジウムも、金も銀も、いずれも金属アレルギーが出る可能性は、ゼロではありません。それほど人間の体(と体液)というのは、どんな金属も溶かしてしまう性質があります。例えば金属製品をペロっと舐めると味や匂いがしますが、これは唾液が金属を溶かして、溶け出した金属イオンを味や匂いとして感じているのです。



金属アレルギーが全く心配がないハフニウム

最後に、金属アレルギーの心配が全く必要ない、ハフニウムという金属素材があることを紹介したいと思います。

ハフニウムは、プラチナに近い銀色の金属で、金属アレルギーの心配がなく、しかも純度100%(厳密には99.98%)の状態でも硬く丈夫で、キズや歪みにも強いです。

金属イオンが溶け出さないので、無味無臭。耐食性が全物質中で最高レベルの金属です。

2011年に、チタン、ジルコニウムと、元素周期表を1つずつ下にたどりながら、見つけたのがこのハフニウムでした。Hfというのがハフニウム(Hafnium)です。

元素周期表ではチタン(Ti)とジルコニウム(Zr)とハフニウム(Hf)は同じ仲間の金属
元素周期表ではチタン(Ti)とジルコニウム(Zr)とハフニウム(Hf)は同じ仲間の金属

実際に手に取って加工してみると、とても美しく、チタンやジルコニウム以上に耐食性が高く、変色もなく、素晴らしい性質を持ちます。

ハフニウム(左)とイリジウム割プラチナ(右)

プラチナと並べて比べると、わずかに白さは劣りますが、金属アレルギーがまったく心配がない安心感は、他では替えられない価値です。

ハフニウムは開発以来、ブログだけで人気がじわじわと広がり、更にテレビ・雑誌に取り上げていただいたりと今では大人気になりました。


パラジウムフリーのジュエリー素材11選

パラジウムフリーのジュエリー素材として、

  • イリジウム
  • タンタル
  • ハフニウム
  • ジルコニウム
  • チタン
  • ニオブ
  • パラジウムフリーのプラチナ
  • ゴールド
  • ロジウム
  • レニウム
  • ルテニウム

の11種類が挙げられます。これら11種類のジュエリー素材については、豊富な写真画像と併せて、こちらに一覧にしてまとめています。
パラジウムフリーの11種類の素材

どうぞ、ご覧ください。


まとめ

以上、パラジウムの金属アレルギーのお話でした。


まとめると

1.金属アレルギーの方は、パラジウムが含まれるプラチナ900やホワイトゴールド、ピンクゴールドを避けたほうが賢明

2.パラジウムフリーのプラチナとして、イリジウム割プラチナ、ルテニウム割プラチナがある

3.プラチナにも金属アレルギーが出る過敏な方には、ハフニウムという金属がある。将来体質が変わってしまっても、ずっと安心。

となります。


なお、パラジウムについて過剰に心配をさせるつもりで書いたわけではないことをお断りさせていただきたいと思います。

歯科金属のような継続的に摂取し続ける場合とは違って、宝飾品によるパラジウムのアレルギーは外しさえすれば症状は緩和します。

ただ、弊社にご相談に来られる方は、金属アレルギーについて真剣に悩んでいらっしゃる方がいて、その方々に正確で安心な情報を届けるために書かせていただきました。

ご質問などがございましたら、お気軽にご連絡いただければと思います。



このコラムの執筆者



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