金属アレルギーと寄生虫の、興味深い関係

かなり昔から、
「サナダムシなどの寄生虫に寄生されていると金属アレルギーを発症しない。」
「少し前(戦後の頃)の人たちは、誰でも寄生虫を体内に持っていて、だから金属アレルギーなんてならなかった。
今の人たちは、清潔になって、寄生虫を持っていなくなって、それと同時に金属アレルギーに悩む人が増えた。」
そんな話を聞いていました。
実際のところは、どうなんでしょうか?
近所には目黒寄生虫館がありますし、詳しく調べてみましたので、書きたいと思います。
寄生虫とは?



寄生虫と言っても、色々な種類がいます。
サナダムシ(ジョウチュウ)や、ギョウチュウ、カイチュウなど、比較的よく聞く、腸内に寄生するタイプもいますし、
中には、脳内に侵入して脳内が虫だらけになる有鉤嚢虫(ゆうこうのうちゅう)のような、考えるだけでおぞましいものもいます。(そもそも寄生虫自体、おぞましいイメージですが。笑)
また、北海道ではよく知られた、エキノコックスのような肝臓に寄生するタイプもいます。
他、ダニなど、皮膚や頭髪といった体外に住むタイプも、寄生虫の一種として扱われることがあります。
寄生虫を持っていると、金属アレルギーを発症しない?
この文献にあるように、



Bach JF., N Engl J Med., 347(12):911-20, (2002)
(訳:自己免疫疾患およびアレルギー性疾患に対する感受性に対する感染症の影響)
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12239261/
寄生虫の感染症の患者数と、自己免疫疾患の患者数には、逆相関があるようです。
つまり、体内に寄生虫を持っている人が多い地域ほど、自己免疫疾患=アレルギーを発症してる人が少ない地域である、ということが分かっています。
この説は、「衛生仮説」と言われています。
これはあくまで統計なので、寄生虫を持っていれば金属アレルギーにならない、と結論づけることはできませんが、なんらかの関係があることが示唆されています。
なぜ、寄生虫とアレルギーが関係あるのでしょうか?
寄生虫が、アレルギーを抑える物質を分泌する?
寄生虫とアレルギーの関係について、有名な研究者に、日本の藤田紘一郎氏(1939-2021 東京医科歯科大学名誉教授)という方がおられます。
藤田紘一郎氏は、「寄生虫博士」と呼ばれて、自らサナダムシを飲んで(自分の腸内で飼育して)、自分の体を実験台にして研究に邁進したと言います。
この方が、寄生虫がアレルギーを抑える物質を分泌するのでは?という仮説を立てて、多くの研究や著作を残しています。
寄生虫が人間の体内に寄生すると、当然、人間の免疫システムは寄生虫を排除するような働きをするはずですが、その免疫をかいくぐって体内にとどまることができるのは、なんらかの免疫反応を抑える物質を分泌しているのではないか、そして、その分泌物がアレルギーも抑えるのではないか、という考え方です。
寄生虫との上手なお付き合い
藤田紘一郎氏の、サナダムシなどの寄生虫がアレルギーを無効にするよう何らかの物質を分泌しているのではないかという説以外にも、最近は別のメカニズムでも説明されているようです。
寄生虫がいることで体内のリソースが割かれ、そういったアレルギー反応に回るほどの余裕がなかったのではないか?という説です。
寄生虫が体内にいれば免疫は絶えず適度に戦っているが、現代のように公衆衛生と薬剤が発達した社会生活では、寄生虫がいないために免疫は戦う相手が見つからず、暴走して自らを攻撃してしまう=自己免疫疾患が起きてしまう。という考え方です。
『寄生虫なき病』モイセズ ベラスケス=マノフ著でも、サイエンスライターでもあり自己免疫疾患を患う著者が、メキシコへ向かい自ら寄生虫を腸内に感染させる治療法に挑戦するストーリーになっていて、読み物としても面白いですが、
自己免疫疾患、アレルギー、アトピーなど現代病として注目されている疾患や花粉症も、寄生虫の「不在」によって、私たちの免疫系が過敏になりすぎているという主旨が説明されています。
他、寄生虫感染そのものではなく、寄生虫感染により変化した腸内細菌叢が、アレルギー反応を抑制する。という文献も見つかります。
参考文献:
寄生虫感染によるアレルギーの抑制作用は腸内細菌叢の変化に起因する
https://webview.isho.jp/journal/detail/pdf/10.11477/mf.1412204887
いずれにしても、寄生虫と金属アレルギーをはじめとした自己免疫疾患には相関関係はあるけど、メカニズムはまだ断定できていない、というところに留まっているようです。
昨今の感染症騒動でも話題になっていますが、人間の免疫(つまり自分以外を認識して排除するメカニズム)というのは複雑で、微妙なバランスの上に成り立っています。
どこまでが自分で、どこからが自分ではないか?
この境界線は、そもそも非常に曖昧なもので、それを扱う免疫系というのはバグが生じやすいのでしょう。
寄生虫がアレルギーの原因になる場合も
金属アレルギーだから、それを治すためにサナダムシを飲もう。
こんなふうにおすすめするつもりはありませんが、そういう方法もあるのか、という参考程度にしていただけたらと思います。
少し前に、「サナダムシダイエット」のように、サナダムシが腸内で替わりにカロリーを吸収してくれるというクレオパトラのダイエット法が話題になったこともありましたが、一般的にはおすすめはできないかと思います。
また、寄生虫が出す分泌物で、アレルギー反応が出る人もいるようです。
ですので安易には試せないですが、寄生虫は種類を問わずどれもが自己免疫疾患を抑制するという話なので、どれかを選ぶとしてらやはりサナダムシでしょうか。。。
この寄生虫と金属アレルギーの興味深い関係。
金属アレルギーのそもそもの原因を解消する、手掛かりになるかもしれませんね。
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このコラムの執筆者
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